Greetings




北に聳えるキネッラ山、その麓にひっそりと佇む小さな町は、母なる山の名を冠した「キネレスアルケ」。

太陽が地平の向こうに沈むと、古い家々に透明な灯が燈り、影絵のような住民たちが通りに繰り出します。

こぼれそうなほど果物が並ぶ市場。 賑やかな音楽にあふれる広場。
井戸端で挨拶を交わす大人たち。 入り組んだ路地を駆けていく子供たち。

日々の糧を分け合い、 山がもたらす恵みに感謝する、
変わらない一夜(いちにち)が始まります。

News


2021.04.18

特設ページ公開

2021.04.18

トラックリスト公開

2021.04.20

通信頒布開始

2021.05.09

コメンタリー

2021.05.09

Bandcamp

Track List


  • track
    01

    01

    キネレスアルケの長い永い一夜

    歌:綾野えいり、真名辺あや、当麻ほのか、
    坂田みどり、鎌北みき/
    作詞:真名辺あや/作曲:オーギュスト棒


    キネッラ山より谷を挟んだ南方に小さな街がある。
    小さいながらも豊かで活気に満ちた街は、古くからキネッラ山を女神とみなし、街にもたらされる実りや富は女神の恩恵によるもの、という考えが強く根付いている。
    この辺り一帯は地質学的にも興味深い点が多く、しばらく滞在して調査したいと申し出たところ、快く同意を得ることができた。
    この手記は調査記録とは別に、個人的な記録や覚書のために残すものである。

    -12頁


  • Track
    02

    02

    母の祈り

    ~フィールドワークによる3つの小品(第1曲)

    歌:坂田みどり/作詞:坂田みどり/作曲:オーギュスト棒


    現地調査の初日、街の顔役の案内で各所を見学させてもらった後、ささやかながら私の歓迎会が催された。
    ここまでの歓待を受けるとは思っていなかったため、多少気恥ずかしさもあったが、朗らかで親しみやすい住民達の人柄にすぐに慣れることができた。
    歓迎会の中で歌われた歌は、老若男女問わず街の誰もが知る歌で、キネレスアルケの住民は物心着く前から聞いて育つという。
    「この歌を歌えるようになったら、あなたも立派な街の住民だ」と酒屋の主人が囃し立てたので、私まで一緒に歌わされる羽目になった。

    -46頁


  • Track
    03

    03

    il saggio o il pazzo

    歌:桜庭わかな/作詞:山下慎一狼/作曲:オーギュスト棒


    思えば私には故郷と呼べるものが無い。
    両親の仕事の都合で幼少の頃から各地を転々とし、故に土地への愛着といったものが極めて薄く、生地ですら碌に案内も出来ない有様である。
    だからこそだろうか、キネッラ山の噴火の予兆を伝えた時、何の躊躇も無く受け入れた彼らの考えに理解を示すことが出来なかった。
    しかし彼らからしてみれば、この街を離れて別の土地で暮らすことの方が余程理解を超えたものだったのだと、今なら分かる気がする。 それは愛街心とでも呼べるものなのか、古くから山と共に生きてきた彼らの文化が培った思想なのか。
    いずれにしろ、彼らが堅実に積み上げた日々の暮らしと歴史は、結局余所者に過ぎない私の言葉ひとつでは到底覆せるものではなかったのだ。

    -161頁


  •  
  • Track
    04

    04

    時計職人

    ~フィールドワークによる3つの小品(第2曲)

    歌:当麻ほのか/作詞:当麻ほのか/作曲:オーギュスト棒


    キネレスアルケの街の名物ともいえる広場の大時計は、60年ほど前に当地の職人達によって作られた。
    素朴な雰囲気の街の中にありながら、精巧な仕掛けと繊細な装飾を施された時計は、意外な取り合わせのようにも思われるが、当時の職人達が外国の技術も取り入れながら街の一大事業として製作にあたった結果だという。
    毎時鐘の音と共に動き出すからくり仕掛けは、時計と共に街が末長く穏やかな時を刻むことを願い、古くから歌い継がれる子守唄を表現している、と人好きのする街の顔役が教えてくれた。
    この美しい大時計は、街のシンボルとして住民達から愛され続けている。

    -27頁


  • Track
    05

    05

    quel giorno

    歌:綾野えいり/原詞:真名辺あや/作詞:Simona Stanzani Pini/作曲:オーギュスト棒


    その日の深夜1時37分、キネッラ山の噴火が観測された。
    発生した火砕流は南方に進出し、キネレスアルケの方角へ向かった。
    溶岩塊を含んだ本体は谷に入り込み街を直撃することはなかったが、火山灰とガスを含む高温の熱雲が街を覆い、深夜であったことも相まって逃れられた者はいないと思われた。
    夜が明け、私がたどり着いた頃には、辺り一帯は灰で覆われ、焼き尽くされた後だった。
    以来、キネレスアルケは今日まで廃墟が残るのみとなっている。

    -129頁


  • Track
    06

    06

    女神の気吹

    作曲・ピアノ:オーギュスト棒



    女神よ。

    彼らが敬い愛した貴女に慈悲があるならば、せめて彼らに魂の安寧を。


    -94頁


  • Track
    07

    07

    星のみたある日

    ~フィールドワークによる3つの小品(第3曲)

    歌:鎌北みき/作詞:鎌北みき/作曲:オーギュスト棒


    先日、珍しく夢を見た。
    キネレスアルケの近隣の町でまことしやかに囁かれる噂を耳にしたからだろうか。
    夜中に廃墟に明かりが灯るだの、鐘の音が聞こえるだの、面白おかしく騒ぎ立てているだけの下らない噂だが、私の記憶を呼び起こすには十分だったらしい。
    慎ましく親切な人たち。広場や市の賑わい。古い石畳の感触。
    どれも驚くほどに鮮明に思い出された。
    長らく足が遠のいていたが、もう一度訪れる気になったのは、そういう訳である。

    -145頁


  • Track
    08

    08

    il soffione

    歌:Rita/作詞:真名辺あや/作曲:オーギュスト棒


    キネッラ山の噴火から数年が経ち、灰に覆われていた土地にも緑が戻り始めていた。
    この地を訪れるのも久しぶりだが、あちらこちらに蒲公英が咲き誇る様など、まるで悲劇などなかったかのように思える。
    しかし未だキネレスアルケは朽ちるままに任せられ、復興が進む気配はないようだった。
    いつか素朴で美しい街並みが、再び戻る日が来るのだろうか。

    -173頁


  • Track
    09

    09

    長い永い夢のあとで

    歌:真名辺あや/作詞:真名辺あや/作曲:オーギュスト棒


    キネレスアルケを見下ろす小高い丘の上で、蒲公英を摘む少女に出会った。
    訪れる者も少ないこの土地で、どこから来たのかと問うと、彼女は眼下の廃墟を指差した。
    しかし、まさかそんなはずはない。
    仮に幸運にもあの災害を生き延びたのだとしても、幼い少女が独りで何年も暮らせる環境ではなかったはずだ。
    おそらく何かの間違いか、あるいは私を揶揄っているのだと思われたが、子供を独り残して去るわけにもいかず、ひとまず他の町まで連れて行くことにした。

    しかし、私はその時確かに聞いたのだ。
    去りゆく少女を見送るように丘の下から響く、あの懐かしい鐘の音を。

    -188頁














Commentary 


TRACK01
「キネレスアルケの長い永い一夜」
歌:綾野えいり、真名辺あや、当麻ほのか、坂田みどり、鎌北みき/
作詞:真名辺あや/作曲:オーギュスト棒


オープニングとしてふさわしく、にぎやかな曲となっている。複数曲のモティーフを同梱しながら、次々と場面展開をしていき、また最初に戻る。こういったミュージカル風の曲調はしばらく書いていなかったので、とても新鮮な気持ちで作曲ができた。また、今回はコンセプトアルバムであるので、本特設ページ公開のテキスト「とある学者の手記」と共にこの楽曲解説もご覧になっていただきたいと思っている。コンセプトの物語を理解することによってさらに曲への理解が深まることを期待している。



TRACK02
「母の祈り〜フィールドワークによる3つの小品(第1曲)」
歌:坂田みどり/作詞:坂田みどり/作曲:オーギュスト棒

技巧的な曲である。この曲とtr.4、tr.7の3曲は、「フィールドワークによる3つの小品」というサブタイトルがつけられており、スタッフ内では「3部作」と呼ばれていた。3曲でひとつの作品と捉えていただいて構わない。さて、楽曲の内容は、非常にクラシカルであり、ピアノとバイオリンとの駆け引き、オケと歌との駆け引きが頻繁に行われ、少々忙しい。ただ、曲の構成は単純なので、理解しやすいと思う。オフボーカル版はまだ出す予定ではないが、出たら一緒に歌っていただきたい曲である。



TRACK03
「il saggio o il pazzo」
歌:桜庭わかな/作詞:山下慎一狼/作曲:オーギュスト棒

「とある学者の手記」の「学者」視点の曲である。4拍子と6拍子が入れ替わったり、同時に演奏されたりと複雑なリズムで構成されており、歌ってみると聴いた感じ以上に難しさを感じるかもしれない。「3部作」以外に唯一この曲のモティーフも「キネレスアルケの長い永い一夜」の曲の一部になっている。その理由をご自身で考えていただくとより一層、面白味が増すのではないだろうか。



TRACK04
「時計職人〜フィールドワークによる3つの小品(第2曲)」
歌:当麻ほのか/作詞:当麻ほのか/作曲:オーギュスト棒

「3部作」の2曲目である。曲の解釈も容易で、構成も展開部を除けば難しくない。だからこそ歌も演奏も、より「アラ」が目立ちやすく、注意深くする必要がある。「サビ」は2回出てくるが、前半は長調、後半は短調であり、できるだけ繰り返しによる冗長な感じを削ったつもりである。だからといって、形式美、様式美は保たれるべきであり、そのバランスが難しいところである。



TRACK05
「quel giorno」
歌:綾野えいり/原詞:真名辺あや/作詞:Simona Stanzani Pini/作曲:オーギュスト棒

簡単に言うと「噴火」の曲である。自然現象、自然災害を描くことに多少の抵抗もあったが、大変勉強になった。このアルバムでいう「噴火」は色を失うことであり、滅びを意味する。できるだけ冷淡にそして不条理に曲を仕上げたつもりである。楽曲の内容はへ短調とロ短調が混ざったような無機質な調性を保ちつつ、変拍子を多用し、構成に複雑さを引き出した。だからといって、ただ激しいだけではなく、緩急をつけ、楽曲として成立させるようにした。



TRACK06
「女神の気吹(いぶき)」
作曲・ピアノ:オーギュスト棒

これも、簡単に言うと「火砕流」の曲である。火砕流を表現した部分と、火砕流により色が失われた街の景色を表現した部分で別れている。楽曲としては、指の有るところに音符があるので、弾くにはそれほど苦労しないとは思うが、誰も好き好んで弾くタイプの曲ではないので、せめて楽譜を目で追える方は下からダウンロードできるので、是非ダウンロードして鑑賞していただきたい。





TRACK07
「星のみたある日〜フィールドワークによる3つの小品(第3曲)」
歌:鎌北みき/作詞:鎌北みき/作曲:オーギュスト棒

「3部作」の3曲目である。この曲がなぜ、Tr.5やTr.6の後のトラックであるかは、「とある学者の手記」をご覧いただければと思う。ゆったりとした3拍子の曲で、歌の音域は常に高い位置で推移する。オケはバイオリンを中心として、非常に簡素である。難しい点は、オケにどう溶け込んで歌えるかである。コンセプトアルバムならではの曲想であるので、作曲していてとても楽しかった。



TRACK08
「il soffione」
歌:Rita/作詞:真名辺あや/作曲:オーギュスト棒

ミュージカル調の楽曲で、場面が次々と移り変わる。場面ごとに歌い分けるRitaさんの歌唱に注目していただきたい。「soffione」とは「たんぽぽ」の意味で、ジャケットにも描かれている重要な部分である。楽曲では普段は使わないクリシェラインを使用した作曲などポップスの作曲法を多用している。しかしながら、楽器はすべてクラシックで使われているものなので、ポップスにならないところが大変不思議である。五線紙での作曲時はもうちょっとポップスよりだったが、実際作ってみたら、ふつうのクラシカルアートポップスになった。



TRACK09
「長い永い夢のあとで」
歌:真名辺あや/作詞:真名辺あや/作曲:オーギュスト棒

エンディングである。Tr.1の対比にするために、多少ポップス寄りにして、次にTr.1を再生しても違和感がないようにした。なぜならば、このコンセプトアルバムは何周か聴いて初めて分かるようなことが隠されているようになっているからである。すべてを知ってからもういちどTr.1を聴くとまた曲の解釈が変わってくると思う。さて、楽曲は「属七の第3転回形」の和音を多用し、エンディングであることを示す効果を高めていて、多少あざとさを感じるが見逃してほしい。






Staff


Music:auguste beau
Arrangement:auguste beau

Vocals:
ayano eiri
manabe aya
tohma honoka
sakata midori
kamakita miki
Rita
sakuraba wakana

Guitar:kato hiroaki
Drums:yabuki masanori
Recording engineer:saka tomotaka
Mix & mastered by:saka tomotaka

Art direction & Drawing:hamano masago

Design work:hashimoto kei

Director:manabe aya




Information


タイトル:キネレスアルケの長い永い一夜 -the colors of wonders-
ジャンル:クラシカルアートポップス
ディスクナンバー:KDR-094
発売日:2021年5月2日
価格:【通常頒布価格】2,000/(通販同時頒布)


■ 通信頒布情報 ■

『キネレスアルケの長い永い一夜 -the colors of wonders-』は、以下の販売業者さまにて委託頒布しております。

≫外部リンクKodomore Records